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神戸地方裁判所 昭和26年(行)7号 判決

原告 黒田静一

被告 国

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「尼ケ崎市瀬江字アラキ一二番地池沼一反一畝二一歩並びに同所一三番の一池沼二反五畝一五歩に対する兵庫県知事の昭和二五年一二月一六日付買収処分に因る所有権取得が無効であることを確認する、訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、

その請求原因として「兵庫県知事は尼ケ崎地区農地委員会が買収時期を昭和二五年一二月二日として原告所有の右池沼につき定めた買収計画に基き、同月一六日付買収命令書を原告に交付して買収処分をした。然し右買収処分は次の諸点において違法である。即ち、尼ケ崎地区農地委員会が昭和二五年九月九日本件買収の前提となつた右池沼買収計画をたてたのは、掛井九蔵ほか一六名の同年五月二日付共同申請のうち上田善三郎、辰野広太郎及び小畑喜一郎等三名の申請に基いたのであるが、これより先右一七名の申請に基く同農地委員会の同月一日付右池沼についての買収計画が同年六月三〇日兵庫県農地委員会によつて原告の訴願を認容して取り消され該裁決が確定した結果、右三名の申請を含む共同買収申請は無効に帰したものである。仮に然らずとするも、前記三名のうち辰野広太郎は昭和二二年一二月二日、上田善三郎は昭和二三年三月二日、小畑喜一郎は同年七月二日それぞれ農地の売渡を受けたものであるから、同人等の右買収申請は自作農創設特別措置法(以下単に法と称する)第一五条第一項所定の申請期間経過後のものである。従つていずれよりするも、右昭和二五年九月九日付買収計画は適法な申請に基かない違法のものであつて、右違法買収計画を前提とする本件買収処分もまた違法のものであるといわなければならない。つぎに、法第一五条第三項、第八条、第九条第一項によると、農業用施設の買収計画に対し適法な訴願があつた場合には、都道府県知事は、都道府県農地委員会がこれに対して裁決をなし且つ買収計画を承認した後でなければ、買収令書を交付すべきでないにもかゝわらず、兵庫県知事は兵庫県農地委員会が原告の訴願を審議するに先だち承認を与えた前記池沼買収計画によつて昭和二五年一二月一六日付買収令書をその頃原告に交付して買収処分をなし、ついで同農地委員会は昭和二六年二月五日右訴願を棄却する旨の昭和二五年一二月二六日付裁決書を原告に送達した。依つて右買収処分の違法であることは言うをまたない。なお原告は昭和一四年六月九日橘千代蔵から本件池沼を石炭殼捨場に使用する目的で買い受けたものであるところ、右池沼はもと田地であつたが、昭和二年頃省線神崎駅(現在尼ケ崎駅)北口附近一帯を宅地化するにあたり、その盛土をとるため堀り下げられ、自然的に池沼を形成するに至つたものであるばかりか、その地形上かつて附近耕作地の潅漑又は排水のため使用せられたこともないから解放農地の利用上何等必要なものではない。従つて右池沼を法第一五条第一項第一号にいう農業用施設としてなした本件買収処分は違法である。しかも以上の諸点における違法は該処分を当然無効ならしめるものであるから、被告に対し右買収処分に基く本件池沼の所有権所得が無効であることの確認を求めるため本訴に及んだ。」と陳述した。(立証省略)

被告指定代理人は、主文第一項と同旨の判決を求め、

答弁として「原告主張事実中尼ケ崎地区農地委員会が昭和二五年九月九日掛井九蔵ほか一六名の同年五月二日付共同申請のうち上田善三郎ほか二名の申請により買収時期を同年一二月二日として原告主張の池沼につき買収計画を定めたが、これより先右一七名の申請に基く同農地委員会の同月一日付右池沼についての買収計画が同年六月三〇日兵庫県農地委員会によつて原告の訴願を認容して取り消され該裁決が確定したこと、右上田善三郎ほか二名が原告主張の日それぞれ農地の売渡を受けたこと及び前記昭和二五年九月九日付買収計画に対し原告が適法な訴願をしたところ兵庫県知事が兵庫県農地委員会においてこれに対する審議に先だち承認を与えた右買収計画によつて同年一二月一六日付買収令書を原告に交付しついで同農地委員会が昭和二六年二月五日右訴願を棄却する旨の昭和二五年一二月二六日付裁決書を原告に送達したことは、いずれもこれを認めるが、その余の事実はこれを争う。即ち、兵庫県農地委員会が原告の訴願を認容して右昭和二五年五月一日付買収計画を取り消したのは、尼ケ崎地区農地委員会が一七名の申請人中に農地の売渡を受けるべきでない者及び前記池沼を農業用に利用することを必要としない者が含まれているのに全員の申請を相当と認定したことによるものであつて、右裁決によつて一七名全員の申請が違法ないし無効となるいわれがない。従つて同農地委員会が一七名のうち右裁決の理由に該当しない上田善三郎、辰野広太郎及び小畑喜一郎等三名の申請を相当と認めて本件買収の前提たる買収計画を定めたことには何等違法のかどはない。また昭和二四年法律第二一五号農地調整法の一部を改正する等の法律第一〇条によると、この法律施行前に売渡を受けた者については、改正後の法第一五条第一項の規定中、同第一六条の規定による農地の売渡を受けた日から一ケ年以内、とあるのは、右法律施行後一ケ年以内と読み替えられる結果、同年六月二〇日より一ケ年以内である前記昭和二五年五月二日付の三名の申請は適法なものであつて、該申請に基く右買収計画には原告主張のような違法の点はない。つぎに、法第八条にいわゆる裁決があつたときは裁決書が訴願人に送達されたときのことではなくて、訴願庁である都道府県農地委員会が訴願に対して内部的意思決定としての裁決の議決をしたときと解すべきところ、兵庫県知事が前記買収計画によつて買収令書を原告に交付したのは、兵庫県農地委員会が原告の訴願に対して裁決の議決をしたときより後である昭和二六年一月一〇日頃であり、また同農地委員会が右買収計画を承認したのは昭和二五年一一月三〇日ではあるが、該承認には提起中の訴願につき棄却の裁決があつたときにその効力を生じる旨の停止条件が付せられていたから、本件買収処分は法第一五条第三項、第八条、第九条第一項所定の手続に合致する適法のものである。なお、本件池沼は従前より解放農地を含めた附近耕作地の潅漑のため使用せられてきたものであるから、該池沼を農業用施設としてなした右買収処分は適法であり、仮に右池沼が法第一五条にいわゆる農業用施設でないとするも、昭和四年頃以来農地に囲繞せられて池沼の形態をなしてきたものであるから、尼ケ崎地区農地委員会がこれを農業用施設として定めた買収計画には単に認定を誤つた違法があるのみで、その違法は取り消され得るに止まる。以上いずれの点よりするも、本件買収処分は適法且つ有効であるから、右処分が当然無効であることを前提とする原告の請求は失当たるを免れない。」と述べた。(立証省略)

三、理  由

尼ケ崎地区農地委員会が昭和二五年九月九日掛井九蔵ほか一六名の同年五月二日付共同申請のうち上田善三郎、辰野広太郎及び小畑喜一郎等三名の申請により買収時期を同年一二月二日として原告主張の池沼につき買収計画を定め、兵庫県知事が右買収計画に基き同月一六日付買収令書を原告に交付して買収処分をしたが、これより先右一七名の申請に基く同農地委員会の同年五月一日付右池沼についての買収計画が同年六月三〇日兵庫県農地委員会によつて原告の訴願を認容して取り消され該裁決が確定したことは当事者間に争がないところ、成立に争のない甲第五号証、乙第三号証の一ないし四に証人竹本稀作の証言を総合すると、右裁決の理由は尼ケ崎地区農地委員会が一七名の申請人中農地の売渡を受けるべきでない者及び前記池沼を農業用に利用することを必要としない者が含まれているのに全員の申請を相当と認定したことを非とするものであつたので、同農地委員会は前記昭和二五年九月九日あらためて右一七名のうち右裁決の理由に該当しない前記上田善三郎ほか二名の申請を相当と認めて本件買収の前提たる買収計画を定めたものであることを認めることができ、右認定はこれを左右するに足る証拠はない。従つて右買収計画はその点において違法となるいわれはない。また右三名のうち辰野広太郎が昭和二二年一二月二日、上田善三郎が昭和二三年三月二日、小畑喜一郎が同年七月二日それぞれ農地の売渡を受けたことは当事者間に争がないところ、昭和二四年法律第二一五号農地調整法の一部を改正する等の法律第一〇条によると、この法律施行前に農地の売渡を受けた者については、改正後の法第一五条第一項の規定中、同第一六条の規定による農地の売渡を受けた日から一ケ年以内、とあるのは、右法律施行後一ケ年以内、と読み替えられる結果、同年六月二〇日より一ケ年以内である前記昭和二五年五月二日付の三名の申請は適法なものであるから、該申請に基く右買収計画には原告主張のような違法の点はない。つぎに、農地等の買収計画に対し適法な訴願があつた場合には、都道府県知事は都道府県農地委員会がこれに対して裁決をなし且つ買収計画を承認した後でなければ、買収令書を交付すべきでないことは原告主張の通りであるが、法第八条にいわゆる裁決があつたときは、同条が主として行政庁相互間の手続を規定している趣旨よりして、裁決書が訴願人に送達されたときと解せねばならぬ理由はなく、むしろ市町村農地委員会において通常裁決のあつたことを知り得るとき即ち都道府県農地委員会が訴願に対して内部的意思決定としての裁決の議決をしたときと解するのが相当であるところ、成立に争のない乙第二号証、同第四号証及び同第五号証を総合すると、兵庫県知事が前記買収計画によつて買収令書を原告に交付したのは、兵庫県農地委員会が原告の訴願に対して裁決の議決をした昭和二五年一二月二六日(この点は当事者間に争がない)より後である昭和二六年一月一〇日頃であり、また同農地委員会が右買収計画を承認したのは昭和二五年一一月三〇日であるが、該承認には提起中の訴願につき棄却の裁決があつたときにその効力を生じる旨の停止条件が付せられていたことを認めることができ、右認定はこれを覆えすに足る証拠はない。しかして右のような承認はこれを違法とすべき理由がないから、本件買収処分は法第一五条第三項、第八条、第九条第一項所定の手続を履践した適法のものであるといわねばならない。なお、成立に争のない甲第七号証に証人小畑喜一郎、岡村信邦、上田善三郎及び阪本太三郎の各証言を総合すると、本件池沼はもと田地であつて、昭和四年頃省線神崎駅(現在尼ケ崎駅)北口附近一帯を宅地化するにあたりその盛土をとるため堀り下げられ自然的に池沼を形成するに至つたものではあるが、解放農地を含めた周囲の農地に対するほかゝらの水の供給が十分でない関係上、従前より水の補給を必要とする稲作時期には水車等により右池沼の水を揚げてその潅漑のために使用してきたものであることを認めるに十分であつて、右認定はこれを左右するに足る証拠はない。されば右池沼は解放農地の利用上必要なものというべく、従つて該池沼を農業用施設としてなした本件買収処分は適法である。依つて該処分には何等違法の点はないから、右処分が違法且つ無効であることを前提とする原告の請求は失当としてこれを棄却すべきものとし、民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 古川静夫 谷口照雄 谷賢次)

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